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私がいわゆる「大阪都構想」(=大阪市廃止)に反対しつづける理由(3/3)

目次

(3)これからの大阪が進むべきヴィジョン

 そんなに「大阪都構想」のことを悪く言うのなら、何か対案を出せとお叱りがありそうです。しかし、「大阪都構想」によって今より大阪の状況が悪化すると述べているわけですから、毒杯を差し出されて「体に悪いので飲まない」と拒む者に、毒杯の対案も何もありません。毒を飲まない、反対票を投じる、それ以外にないわけです。

 しかしながら、純粋に大阪の変革と成長を思って「大阪都構想」に望みをかける、そういう方々の願い、気持ちを否定するわけでは決してありません。大阪府、大阪市をより豊かにしたい、その思いは賛成派・反対派を問わず、大阪市民で共有しているものと信じています。そこで、以下に大阪府、大阪市が今後どのような道を行くべきか、私見を示させていただきます。

地方分権--政令市の強化

 「大阪都構想」が実施されれば、大阪市という政令市が廃止されることは再三述べてきた通りです。しかし、これまでの日本は地方分権を目指し、5都市あった政令市を20都市に増やしてきた経緯があります。中央集権、東京一極集中の是正を目指し、地方の都市に力を持ってもらうために政令市を増やしてきたのです。ここで、大阪市という政令市が廃止されてしまっては、大阪だけが日本の流れに逆行することになります。

 コロナ禍を経て、住民に対してきめ細かなサービスができる政令市の機能が再注目されております。また住民サービスだけでなく、国と直接交渉するなど独自の権限が政令市には備わっています。そこで今後、地方分権を真剣に進めていくためには、政令市の機能・権限の強化という方向に舵を取っていくべきであると考えます。例えば、去年4月には、これまでは都道府県のみが可能であった災害救助活動を、政令市も実施可能とした「改正災害救助法」が施行されました。他にも、例えば、今後、幼稚園などを認可する権限を府県から政令市に移行するなどして、政令市独自の街づくり、取り組みが可能であるように、政令市強化の方向こそ、我々の歩むべき道です。

 その道を行くために、西日本経済のへそである大阪市という政令市が積極的に範を示し、より強い政令市として国と直接的に調整をはかり、成長を目指していくという戦略をこそ採るべきです。実際、菅総理も政令市の強化を打ち上げておられます。このような時代に、いわば「大阪市強化策」を実施していくべきだというのが、私の意見です。

 具体的な成長戦略としては、2025年大阪・関西万博の成功、北陸新幹線・リニア新幹線の早期着工を目指します。そして同時に、この大阪をスタートアップエコシステムの拠点とし、内閣府主導で進められる未来都市プロジェクトであるスーパーシティー構想を基に、また国際金融都市を目指し、国と一体となる形での成長戦略を描くべきです。このような計画を進めていくためには、政令市としての大阪市の権限が、絶対に有用であると考えます。

 無論その際には、隣の政令市である堺市、そして大阪府とも協調をはかりながらオール大阪を掲げていくことが必要です。

地域内分権

 またこれまで、行政効率の向上のため市町村合併を進め、政令市や中核市を増やし、さらに地域自立を図るべく府県から市町村へと権限や機能を移行してきました。大きな枠組みとして道州制も一つの選択肢に見据え、より小さなエリアの中では細やかな自治・住民サービスが可能であるように、地域内分権の取り組みを進めていく。このような方向へと、都市制度を進めてきた通り、これからも進めていくべきだと考えます。

王道は派手ではない

 今のままの大阪ではいけない、変わらねばならない。そういう危機感から、何かしら大阪の変革を求める雰囲気が漂っているのだと思います。その危機意識、感性は尊重すべきものです。大阪は変わっていかねばなりません。

 しかし、それは「大阪都構想」という、今ある都市制度を全て壊して更地にするような、派手で乱暴な手段によってではありません。そうではなく、改革を進めながらも地に足のついた、堅実な行政だけが、大阪を真の豊かさに導きます。

 地道で誠実な、王道を行く行政こそが、今の大阪に必要なものです。それはもしかしたら、メディア映えするような華やかさを欠くものかもしれません。しかし、誠実な行政を取り戻すことこそが、大阪に必要な改革です。

変えるべきは緊縮

 現在、大阪府、大阪市は深刻な状況にあります。維新の会は「大阪の成長を止めるな」というキャッチコピーを用いて、さも大阪が成長しているかのように演出していますが、実際には大阪は成長しておりません。

 今年2月に広報誌「自由民主(号外)」でも掲載しましたが、平成28年度県民経済計算を見れば、全国と近畿の1人当り県民所得・GDP(県内総生産)が向上する一方、近畿圏では大阪のみが所得も減少、マイナス成長していることが分かります。大阪府の1人当り県民所得は、全国平均以下です。

 失業率も全国トップクラス、コロナ以前から企業の廃業率・倒産率の高さも課題です。大阪府庁HPの『これまでのデータでみる「大阪の成長戦略」』などを見ていただければ分かりますが、大阪府は他の都市より低所得者層の割合が明らかに高いことも指摘できます。企業の転出もなかなか止まりません。はっきり申し上げて、大阪府は成長しているとはお世辞にも言えません。

 このような経済的低迷の原因は明らかです。維新行政による緊縮財政に問題があります。

 大阪府の商工予算はこの10年、大幅に削減されてきました。日本政府が中小企業を盛り立てようと様々な支援策を実施しているとき、大阪府はその流れに逆行し、中小企業への支援を縮小、削減していきました。デフレの中で個人消費者や民間企業が消費や投資を控える、”民”がお金を使わない状況では、”公”による支出はある程度許容されるべきなのです。現在、中小企業は日本企業の99.7%を占め、日本の従業者数の約7割を雇用しています。

 経済を立て直すというとき、日本経済の核である中小企業への投資を怠って、冷や水を浴びせてどうするのでしょうか。

緊縮は命にかかわる

 これまでの維新行政の緊縮策は、感染症対策、医療体制の充実にも逆行してきました。例えば、医療分野とも切り離せない生命科学の研究施設として、かつて大阪には大阪バイオサイエンス研究所というものがありました。この研究所は小規模ながら、論文被引用回数が世界的にもトップクラスの、優良な研究施設でした。しかし、維新の緊縮策のなかで大阪市が支援を打ち切ったことで解散となりました。

 また大阪市立住吉市民病院も閉鎖され、病床数の減少につながりました。このコロナ禍で、感染症研究や医療の重要性が改めて取り沙汰されましたが、これまでその研究や医療を削ってきたわけです。

 実際に行われてきた施策は、無情にも大阪市民、府民、国民を害する方向に作用してきました。

教育改革の失敗

 また教育行政に目を向けても、問題は明らかです。小中学生を調査した全国学力テストの結果では大阪府は全国46位、ビリから二番目という状況であり、大阪市は政令市20都市中、最下位のビリです。本来、学力テストは学校や地域ごとの差を可視化し、課題を発見するための取り組みなので、必ずしも順位にのみ固執すべきではないと思います。しかし、順位・数字にこだわってきた、他ならぬ維新行政による教育改革の結果がこれなのですから、明らかな失政です。

 維新府政はこれまで上述の緊縮策の流れのなか、効率・競争という大義名分のもと公立学校の統廃合を進め、民間人校長を公募し、能力・成果に応じた給与を支給する教員の評価システムを導入するなどしてきました。その結果、公募校長の不祥事多発、教員の多忙化や、教育現場の疲弊、崩壊を招いてきたというのが実情です。

 教育は、教員と保護者と子どもたちの、複合的で豊かな関係によって営まれるべきものです。そこに数値という単一の指標のみをもって、強圧的に介入しようという姿勢自体に無理があります。教育に数字のみを追い求め競争を煽った結果が、最低の順位という数字として現れたのだと思われます。

解決策は、地道な政治

 以上、維新府政・市政の失敗として、経済・医療・教育の三つの分野について指摘いたしました。まだ他にも彼らの失政は多岐にわたります。しかし、これらの維新による失政の原因ははっきりとしています。過度な緊縮です。本来は予算をつけるべき所にすら支出をしないという悪癖が、いま大阪を苦しめているのです。

 テレビに映る維新政治家たちは、いつも何かと戦っています。「こういう悪者がいるから世の中は良くならない!」と訴えておられます。悪者役としては、公務員であったり教育委員会であったり、成果は見えづらいが必要な公共事業であったり、さらには大阪市という政令市などが割り当てられます。そして、悪者への予算をカットし、やっつけることで世の中が何か良くなるのだという雰囲気が蔓延します。

 しかし、コロナ禍前から世の中のお金の廻り自体が滞り、コロナ禍で決定的な不景気が生じてしまったいま、本当に必要なのは「悪者」叩きばかりに夢中になることではなく、重要な産業や事業に適切に予算と人員を分配することです。

 中小企業が危機に瀕するいま、予算を確保した上で、中小企業に適切な支援をすることが必要です。ひっ迫する医療現場を堅守し、今後の医療研究を進めるためにも、子どもたちの教育現場を守るためにも、適切な支出が必要です。

 そして、こういう地道で正しい予算分配のなか、この大阪市が発展を遂げていくという方向を見据えて、いわば「大阪市強化策」と呼べるものによって、地方分権を真に推し進めていくべきだと私は考えております。大阪経済・関西経済を牽引し、世界の商都大阪として輝いていくためにこそ、政令市の機能が必要です。

 「大阪都構想」が実施されれば、この方向は閉ざされます。さらには、大阪市という自治体の消滅によって、大阪府の緊縮策が促進されやすい土壌ができてしまうという懸念もあります。これでは、大阪市のためにも、大阪府のためにも、そして日本国のためにもなりません。堅実に大阪市を発展させ、市民と府民の真なる豊かさを育んでいくため、今回の「大阪都構想」、大阪市廃止の住民投票には「反対」を投じていただきたいと、皆さまにお願いを申し上げる次第です。

(本文は2015年5月2日に公開したコラムを大幅に加筆、修正したものです)

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この記事を書いた人

左藤 章のアバター 左藤 章 元衆議院議員・学校法人大谷学園理事長

現在、学校法人大谷学園理事長。
防衛副大臣兼内閣府副大臣、衆議院安全保障委員長、衆議院文部科学委員長等を歴任。
情報通信、防衛、教育、司法など多岐にわたる分野で活動中。

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