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私がいわゆる「大阪都構想」(=大阪市廃止)に反対しつづける理由(1/3)

11月1日、大阪市を廃止し4つの特別区に分割するいわゆる「大阪都構想」の是非を問う、二度目の住民投票が行われます。前回、2015年の住民投票で否決されたものが、再び住民に問われることとなりました。

 私たち自民党は、今回も引き続いて「大阪都構想」(=大阪市廃止)に反対をしつづけております。その反対理由は、前回2015年の住民投票時のものと多くが重なるところですが、改めてここでそれを明らかにさせていただきたいと思います。

 さて、以下で我々の反対理由を説明する前に、誤解が生じるかもしれないので、先ず次のことは断っておかねばなりません。

 この住民投票は政党間、議員間での政局の問題などではなく、大阪市の住民たちが今後どういう街に住みたいかを決める、住民が主人公の投票です。その結果の利益・不利益はすべて住民が受けるものとなります。ですから、一人でも多くの住民の方が正しい認識と判断のもと投票に行っていただくことが、大切になってまいります。

 コロナ禍にて、住民への説明が十分に行われないまま住民投票に突入し、直近に行われた大阪市民へのある世論調査では、「住民への説明が十分ではない」と回答した方が7割を超えていたようです。住民の理解が未だ十分でないなか、住民の将来を左右する重大な決定がなされるのは、危険極まりないことです。テレビやネットでは、イメージ先行の、断片的な情報が錯綜しています。その中で何が正しくて何が間違っているか、見極めるのは容易ならざることです。ここで少々長文ではございますが、まとまった形として私の都構想への見解を提示いたしますので、住民の方々の正しい理解への一助として、本文をお読みいただけましたら幸いです。

目次

(1)大阪市廃止で起こる11のこと

 先に結論を記せば、私が「大阪都構想」に反対するのは、メリットが全く見当たらず、一方でデメリットや懸念事項が山積しているからです。こう述べますと、「そんな馬鹿な!」「多くの人が大真面目に検討、議論している案に良いところがないなんて嘘だろう」と思われる方もいらっしゃると思います。しかし、まさにそんな馬鹿な、嘘みたいな案なのです。明らかに間違った案が勢力を持ってしまうという事態は、実社会では決して珍しいことではありません。そういう事態を避けるには、一人ひとりが「なんとなく良さそうなもの」をしっかりと疑い、適切に判断するほかありません。

 先ず、大阪市を廃止し、特別区が設置されるとどうなるかの話をいたします。

①特別区では権限が格段に低下

 今の大阪市は、最高の自治権を持つ政令指定都市です。政令指定都市(=以下、政令市)は、大変大きな力を持っており、将棋で言うと「飛車」や「角」といった最強の大駒のようなものです。政令市である大阪市には、府の権限の90%以上が移譲されており、大阪市は府を通さずに予算などについて国と直接交渉、要望する権限があります。しかし、大阪市が廃止され特別区になってしまうと、あらゆる予算の要望など重要な事柄を、大阪府を介して行っていくことになります。この特別区は消防車一つ買えず、一般市や町どころか村より小さい権限しか持たない、将棋で言うと「歩」という最弱の駒のようなものになってしまいます。

 大阪市の持つ政令市という「飛車」「角」の自治権を放棄し、特別区という「歩」になろうというのが、「大阪都構想」の本質です。

自主財源マイナス5000億円、財源総額マイナス2000億円

 現在、大阪市は市税6,601億円を自主財源として持ち、これに地方交付税などを合わせ、総額8,785億円を全体の財源としています。

 大阪市から特別区に分割されると、市税6,601億円が4特別区の合計区税1,748億円になります。現在の大阪市の税収の項目は7ですが、特別区になれば固定資産税などが府へ移行され、税目が3に減るからです。自主財源としてはマイナス5000億円になるわけですね。そしてこの1,748億円に財政調整交付金などを計上し、合計6,749億円が4特別区の財源総額となります。

 要するに、大阪市から4特別区になれば、自主財源は5000億円マイナスになり、財源総額では2000億円マイナスになります(平成27年度決算ベース)。

15年間で1,340億円のコスト増

 大阪市を廃止し特別区を設置するのも、当然ただではありません。お金がかかります。

 約240億円のシステム構成費などの初期費用をはじめ、庁舎設備費、15年間のランニングコストや職員の増員費用などで、特別区設置コストとしてはじめの15年間で約1,340億円を、自民党会派は試算しています。

④ スケールデメリットで年間約200億円のコスト増?

 一つの大阪市を4つの特別区にすれば、行政コストの増大が予想されます。

 4人家族が同居するのと、4人バラバラで別居するのとで、お金のかかり方は当然異なります。別居の方が高くつきますよね。大阪市⇨4特別区で必要な行政コストが増すのも同じことです。同居して生活費を安く済ませられることをスケールメリット、その逆をスケールデメリットと言います。4特別区への分割では、スケールデメリットの発生が予想されます。

 このスケールデメリットについて、自民党会派による試算では「基準財政需要額」という理論値を目安に、年間約200億円のコスト増を予想しています。

 正確な数値の算出は難しいものですが、大阪市が4つの自治体に分裂した場合のその数値は、都市制度設計にはとても重要なものとして考えておく必要があります。

⑤ 住民サービスの悪化、公共料金の値上げ

 上述のように、大阪市から特別区に移行すれば自治権限も財源も低下し、コストは増大するので、住民への行政サービスは改善するどころか悪化することは明らかです。当然ですが、自治体の財政が悪化すれば、これまでのような住民サービスは維持できません。

 例えば、すでにコロナ前の特別区の財政シミュレーションでも、プール、スポーツセンター、老人福祉センター、子育て支援施設など17億円分の縮小削減が想定されています。となれば、コロナ禍を経て景気の落ち込みに伴う税収減が見込まれる今後は、市民利用施設の縮小削減がより大きくなることは明白です。

 さらに、府・区の財政が厳しくなれば、生涯学習、区民イベントなど生活に密着した事業の廃止もありえます。他にも、公営住宅や水道料金、保育料の値上げ、学校給食費の有料化などが予想されます。

⑥ 区役所が分かりづらく、遠くなる

 特別区が設置されれば、今までの区役所は窓口業務を行う支所になります。しかしそこには区長もおらず、これまでの業務の大部分は特別区役所で行うことになります。またこれらの二箇所とは別に、現在の市役所を特別区で間借りして使用する予定です。

 つまり、現在の区役所・特別区役所・現在の大阪市役所、これらの三箇所に区役所機能が分散し、用事によってどこに行けばいいのか分かりづらい状況になります。また、これまでは地元の区役所で事足りていた用事も、改めて特別区役所などに足を伸ばす必要が生じてくる可能性は極めて高いと言えます。

 きめ細やかな行政や地域支援は手薄となり、住民から近くなるどころか遠くなる行政サービスになる懸念があります。

⑦ 「二重行政」は存在しない。特別区設置により三重行政に

 維新の会などの「大阪都構想」賛成派は、悪しき二重行政をなくすための大阪市廃止であると主張しています。

 しかし、二重行政による無駄な出費の例として挙げられる「りんくうゲートタワービル」や「WTC」などの失敗は、二重行政のせいではありません。大阪市と大阪府がバブル景気の発想のもと、それぞれ別の目的で建設して、それぞれ失敗していったという経緯です。それはプランの方向が間違っていたがゆえのことで、都市制度の問題ではありません。

 街づくり・行政に際しては、大阪市と大阪府が調整して計画を編めばいいのです。実際、現在は調整会議が行われ、松井一郎大阪市長も、現在の大阪市と大阪府に二重行政は存在しないと言明されています。大阪市と大阪府の意見調整だけで、市と府の「二重行政」なる問題は解決するわけです。二重行政という言葉は、大阪府と大阪市の失敗した事業に、後から貼られたレッテルに過ぎない、一種のレトリックです。

 そしてそもそも、二重行政というレトリックには、「知事も市長も全く同じ方向を向いていないこと」を悪だと見なす前提があります。しかし、知事も市長も、府民や市民によって選挙で選ばれた、民意の代弁者です。知事と市長で同じ方向を向いていないのであれば、それは民意の結果、そういう状況になったということです。知事は府民と府域のために働き、市長は市民と市域のために働く。その中で意見が必ずしも合致しないことは自然です。だからこそ、話し合いで調整する必要があるわけです。

 大阪府と大阪市の話し合いが面倒だから大阪市を潰してしまえ、というのはあまりに乱暴で、民意を無視した考えです。また、実は大阪市を廃止したところで、話し合いの手間と回数は増えます。

 この「都構想」の見本になっている東京都には、23区の調整機関として都と区の間に一部事務組合という組織があります。大阪市を廃止して特別区を設置した場合も同様に、一部事務組合が置かれます。①で、特別区は大阪府を介して予算などの要望をすると述べましたが、その間に一部事務組合で調整してもらう必要も生じてきます。意見調整に必要な手続きという観点から言えば、「特別区」→「一部事務組合」→「大阪府」の三重行政となります。さらには、特別区同士での意見調整も必要になってきます。

 これまでは大阪市と大阪府との意見調整で済んだところが、知事と4特別区長との意見調整も含め、余計に手間が増える格好になり、決められない行政、たらい回しの行政になる懸念があります。

⑧ 職員数の増加

 大阪市を廃止し特別区を設置すれば、新たな行政システムを一から作る必要が生じます。その際には、特別区別の教育委員会をはじめとする、様々な組織、部署をつくらなければなりません。必然的に職員の数は増えるので、自民党と維新の会のシミレーションによると、人件費の増額が予想されています。さらに、それぞれの部署、各特別区に専門家を配置しなくてはなりません。この際に人材の数が実際に足りるのかも、懸念があります。

 実際、「大阪都構想」のモデルとなる東京都では、特別区民の税収のほとんどが都に吸収されているのに、多数の議員・職員への人件費がかさみ、その非効率さが問題視されています。

⑨ 住所変更による手間と費用

 大阪市が廃止されれば、当然住所が変わります。例えば、「大阪府 大阪市 阿倍野区 ○○」という現在の住所は、「大阪府 天王寺区 阿倍野 〇〇」などになります。なお、「大阪都」にはなりません。

 この際、免許証や年金手帳などの役所関係書類の変更手続きは、もちろん役所が行います。しかし、それ以外は住民たちが自分でしなければなりません。例えば、企業・団体などで管理している名簿・商用封筒・名刺・ハンコなどの住所変更。その費用はもちろん自己負担です。

⑩ 政令市・大阪市には二度と戻れない

 巷には「一回、都構想をやってみて上手くいかなければやめればいい」「特別区がダメだったら戻せばいい」という声があるようですが、不可能です。一度、大阪市を廃止して特別区に解体してしまえば、特別区を一般市に戻す法律が存在しないので、大阪市はもう元に戻りません。

 具体的には、地方自治法の第七条に市町村の設置についての規定がありますが、第二百八十一条の三に「第七条の規定は、特別区については、適用しない」とあり、特別区を市町村にすることが今の法律では、不可能なのです。

 「法律がないならお前たち国会議員が作ればいいだろう」と言われるかもしれません。しかし、特別区を一般市に戻す法律ができれば、東京の特別区が一般市になれるようになるわけですから、ことは日本の首都である東京の構造を書き換えるほどの一大事です。

 そのような法律を作るのは、並大抵のことではできません。非現実的な選択肢だと思ってください。もし仮にそのような法律ができたとしても、かなり先の未来となるでしょう。

経済成長につながるわけでもない

 そして残念ながら、多額のお金を投資して政令市である大阪市を廃止し、特別区を設置したからといって、経済成長できるわけではないのです。都市制度と経済成長の間に、因果関係は証明されておりません。

 例えば、「大阪市が廃止されて特別区になったから」という理由で、「大阪でもっとお金を使うぞ!投資するぞ!」「大阪で商売を始めよう!」「大阪での商売をもっと拡大するぞ!」と考えて、経済活動を積極化する個人・企業の方がどれだけいらっしゃるでしょうか?特別区制度が経済活動を促すなどということは基本的にないわけです。

 こう申し上げると、次のような反論がありえます。「大阪府として経済開発を進めていくために、府市が一体になり施策に取り組む必要があるのだ」と。しかし、これこそ松井一郎大阪市長がおっしゃるように現在は二重行政などないのですから、大阪府と大阪市で調整の上プロジェクトを推進することが可能です。膨大なコストをかけて大阪市を廃止せずとも、今でもできるのです。

 概して述べれば、上記の通りです。しかし、防災体制の劣化など、懸念される事項はまだまだあります。特に住民の支払うべき公共料金の変化など、今後の住民の負担が増える可能性の高い事項については、具体的なことが未だ何も決まっていないのが実情です。そのため、都構想後の生活の詳細については正確な所をお伝えすることが不可能なのです。しかし、権限の低下・自主財源の激減という事実に基づいて推量すれば、住民負担は増えるだろうとしか考えられません。

 この「大阪都構想」(=大阪市廃止)が本当に良い案であれば、他の道府県でも同じ動きがあってしかるべきです。しかし、神奈川県の横浜市という政令市を廃止する、愛知県の名古屋市という政令市を廃止する、そのような動きは全くありません。当然です。政令市の廃止とは自治権限の放棄なのですから、議論すること自体が異様なのです。

 また、政令市である大阪市を廃止するという「大阪都構想」は、時代に逆行する構想でもあります。現在、全国では市町村合併により3200程の市区町村が1741になり、府県の権限を市町村におろす、地域内分権が進められています。権限と機能を府県から市町村へ、というのが現在の趨勢なのです。菅総理も政令市の廃止ではなく、政令市の強化をするべきだと言明されているように、政令市強化こそが時代の要請です。大阪市の権限を大阪府へ譲渡しようという「大阪都構想」は、このような全国的流れに反するものでもあるわけです。

 次章では、大阪と東京の比較について記します。

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この記事を書いた人

左藤 章のアバター 左藤 章 元衆議院議員・学校法人大谷学園理事長

現在、学校法人大谷学園理事長。
防衛副大臣兼内閣府副大臣、衆議院安全保障委員長、衆議院文部科学委員長等を歴任。
情報通信、防衛、教育、司法など多岐にわたる分野で活動中。

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