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旧来の「新自由主義」から新しい「日本型資本主義」へ

 2021年9月29日、「小泉改革以降の新自由主義的政策からの転換」を訴えていた岸田文雄氏が自民党総裁選に勝利し、翌月より岸田新内閣が発足いたしました。

 岸田新総裁のもと新たな自民党として、これまでの政策を大々的に修正する方向に舵を切っていくわけですが、その具体的な内容については、まだ十分に周知されているとは言えません。そこで、そもそもこれまでの政策の何が問題だったのか、そして新たな自民党が何を変えていくのか、本稿では私の考えを交えながらお伝えしたいと思います。なるべくわかりやすい言葉で書いたので、最後までお付き合いくだされば幸いです。

目次

これまでの「新自由主義」的な政策

 まず、言葉の説明から始めましょう。「新自由主義」とは、市場の競争原理を重視して、政府による個人や市場への介入を最小限にしようとする考え方のことで、福祉サービスや公共投資などを極力減らした、いわゆる「小さな政府」の実現を目指す経済思想のことです。

 日本では、2000年代の小泉内閣から本格的にその新自由主義的な路線がとられました。新自由主義は市場原理を重視するので、企業などが儲けようとする時の規制を取り払って、精一杯競争してもらおうという発想をとります。それゆえ、例えば小泉政権下では労働法制の規制緩和がなされ、非正規雇用の拡大が行われました。これによって企業の人件費を抑える手助けなどをしたのです。

 このような新自由主義的政策は、ことのなりゆきを市場の競争原理を委ねようとするもので、その結果として競争の勝者と敗者、強者と弱者がより鮮明に分かれることとなりました。例えば非正規雇用が増えたことによって、雇い主は従業員を解雇したり雇い入れたりしやすくなり人件費も抑えられるので、利益を生みやすくなりました。しかし一方で、非正規雇用の労働者は賃金が抑えられ、不安定な雇用で人生設計も難しくなる、そういう状況になってしまいました。

 また新自由主義に舵を切った2000年代からは、「小さな政府」を目指す文脈で、政府による公共投資(公共事業)の予算も縮小してきました。公共投資を減らすことで、市場の自由をより尊重しようとしたのです。

 しかしこの政策にも負の影響がありました。1990年代前半にバブルが弾けて以来、日本では需要よりも供給が上回るデフレ、みんながお金を使わなくなるいわゆる不景気が続いていました。なので、国が公共投資に回すお金が減ると、いよいよみんながお金を使わなくなる状況が続いたのです。

 デフレ、不景気は循環すると考えられています。

 デフレで企業が儲からない⇨企業は人件費や投資など支出を抑える⇨労働者の賃金は下がり、消費者がお金を使わない⇨より不景気になり企業が儲からない⇨企業は支出を抑える……。こういった悪循環をデフレスパイラルといいます。

 このデフレスパイラルを断ち切るためには、例えば政府が民間企業にインフラ整備をお願いするなどの公共投資を行うことで、意図的に好景気、民間企業が儲かるような状況をつくりだす必要があります。しかし、2000年代以降の日本はその真逆に進んでしまいました。公共投資を減らすという新自由主義的な政策によって、不景気の循環は続いていってしまったのです。

 新自由主義的政策によって、企業などに競争力を持ってもらおうとしたのはいいのですが、その負の側面として、格差を作り不景気を長引かせる方向に作用してしまった、というのが小泉改革以降の日本の課題です。

 さて、ここで「弱肉強食の社会で、強いものと弱いものに格差ができて何が悪いのか」という疑問がありえます。確かに、格差もゆるやかなものであれば、それは自然のなりゆきかもしれません。しかし大きく広がった格差には、主に以下の二点の理由で、問題があると言えます。

① 頑張っても報われない社会になる。

 社会格差、所得格差が拡大して固定してしまうと、例えば成功した豊かな親のもとで産まれ育った子供はより良い教育を受けることができ、社会で成功する確率がより高くなっていき、その一方でそういう家庭に生まれなかった子供は、恵まれた同世代に勉強や就職などで勝つ可能性がどんどん低くなっていってしまう。そうやって「頑張っても報われない社会」が促進、固着してしまう、という事態が多くの識者に指摘されています。

 このごろ取り沙汰される「親ガチャ」という若者言葉も、そういった社会の不条理な側面をカジュアルに言い当てるという小気味良さのようなものが、若年層の共感を産んだのでしょう。社会格差が強固なものになってしまうと、頑張っても報われない確率が高くなっていき、そのために無力感が蔓延してしまいます。それに伴い、社会的活気も後退するでしょう。

② 経済成長が止まる。

 OECDの調査などでも、所得格差が増大すると経済成長が停滞するという関係が報告されています。つまり、「自分には関係ないから、弱く貧しいものたちは弱く貧しいままでいい」と言って、高所得層と低所得層が両極化する状況を放置していると、実は所得とは関係なく私たち全体として貧しくなってしまうということです。

 つまり増大した格差は、それ自体が社会を脆弱化させ、また経済を停滞させてしまうということなのです。そして近年広がりつづけてきている格差の背景には、小泉改革以降の新自由主義政策の影響があった、というのがこれまでの経緯です。

 概して言えば以上のような、格差と不景気の連鎖を変えるべきだという訴えこそが、総裁選時の岸田文雄氏の掲げた「新自由主義からの転換」という旗だったということです。

 無論、2012年以降には安倍政権が経済界に賃上げを要求しつづけるなど、格差拡大を食い止めようとする取り組みもありました。しかし、小泉改革以降の新自由主義的政策からの本格的な脱却はついに果たせなかったと言えるでしょう。そこで今度こそそれを果たそうとする、アベノミクスを乗り越えようとするところに、岸田氏の訴えの眼目があります。

これからの新しい「日本型資本主義」

 格差と不景気を引き起こすような旧来の新自由主義的政策から大々的な転換を果たし、日本を明るくする。それが、岸田新内閣の掲げている目標です。そのためにはやはり、格差是正と景気の回復に真剣に取り組む必要があります。先述したように、格差自体が経済成長のマイナス要因なので、「格差を放置して経済対策だけをする」というのは非効率的なのです。格差是正と景気の回復は、同時に取り組まねばなりません。

 そのため、最新の「自民党政策BANK」では全12ページの内、6ページ近くが「分厚い中間層の再構築」というテーマに沿って書かれています。富裕層と貧困層のあいだにある中間層を分厚くし、広がってしまった格差を是正していく。そして豊かな中間層を中心に、経済を盛り立てていく。新しい自民党はそういう未来を描いています。

 そのための具体的な取り組みとして、以下のような公約を掲げています。

コロナ対策も含めた強固な医療体制の構築

 やはり、コロナ禍で安心して経済活動ができないという状況が続いています。コロナ対策は必須です。病床・医療人材の確保、保健所・検査・水際対策のさらなる整備を進めます。またコロナ禍の教訓も踏まえて、ワクチン開発の支援などによって医薬品産業を強化してまいります。

看護師、介護士、幼稚園教諭、保育士などの公的価格の引き上げ

 これらの職業は、賃金が公的に決まるにもかかわらず、仕事内容に比して報酬が十分であるとは言えません。これまでも安倍政権から、これら職種の賃金アップは進めてまいりましたが、それでもいまだに介護職などの賃金は全産業の平均よりも低い状況にあります。重労働かつ社会的意義も深いこれらの職に従事されている方々の給与を引き上げることは、人材の確保という意味でも重要です。また、我々は「国民全員の所得を上げる」という目標を本格的に目指しているので、まずは公的に価格が上げられるところから着手するのが順序です。彼らの給与がアップすれば、あなたの給与アップにもつながります。経済は、そのようにできています。

科学研究への積極的な投資

 5年間で総額30兆円の政府研究開発投資を目指します。この国の科学技術を世界最高峰のものに押し上げ、そのために必要な各分野への投資はもちろん、将来の科学を担う大学院博士課程以上の若手研究者への支援を行います。また、コロナウイルスだけではない、将来の感染症流行に備えての医薬研究、創薬力などを産学官の連携で進めます。

防災対策、国土強靭化

 近年、激しい災害が頻発化しています。被災地の道路などの本格復旧を進めるのはもちろんのこと、災害から国民の命と暮らしを守るため、流域治水対策などインフラ整備を進めてまいります。かつて民主党が「コンクリートから人へ」というスローガンを用いて、インフラ整備などの公共投資を批判しましたが、見当外れです。コンクリートは人の命を守ります。さらに、適切な公共投資は、デフレを脱却しようという時に絶対に必要なものです。民間部門にお金を巡らせることなく、不況脱出などできるわけがありません。国民の命を守るためにも、経済を明るくするためにも、必要不可欠な施策です。 

中小企業支援 

 現在、中小企業は日本企業の99.7%を占め、日本の従業者数の約7割を雇用しています。中小企業は、いわば日本経済の“へそ”です。しかし、このコロナ禍の煽りを受けたり、事業承継がうまくいかなかったり、いわゆる下請けいじめにあっていたりと、困難を抱えておられる中小企業は少なくありません。そこに支援を行います。コロナ禍で打撃を受けた中小企業への金融支援や、事業承継に対する税制などによる支援、下請取引の適正化を進める監督体制、業界の自主行動計画の策定の加速化、こういった取り組みによって、中小企業を支えていきます。

 以上の取り組みは公約全体からすれば一部に過ぎませんが、中間層の方々の生活がより豊かになるような、本当に必要な方面に充実した予算をつけていくという戦略が基本です。これらの積極的な再分配によって格差を是正し、デフレを脱却していく方向に舵を切ります。それに伴って、一般の会社勤めの方々の賃金も上がっていく未来に、確実に歩を進めてまいります。

 本来つけるべきところにも予算をつけない、新自由主義的な緊縮財政の悪癖を克服せねば、日本の好景気はありえません。したがって、一般のサラリーマンの給与上昇という未来もありません。しかし逆に、格差を是正するような、積極的かつ適切な予算分配をすれば、日本の好景気は現実のものとして見えてきます。そして国民所得全体の上昇も起こっていくでしょう。

 新たな自民党の一員として、再分配による分厚い中間層の再構築を実現し、国民みんなで豊かになる、そういう明るい未来をつくってまいりたい。それが政治家としての私の志です。

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この記事を書いた人

左藤 章のアバター 左藤 章 元衆議院議員・学校法人大谷学園理事長

現在、学校法人大谷学園理事長。
防衛副大臣兼内閣府副大臣、衆議院安全保障委員長、衆議院文部科学委員長等を歴任。
情報通信、防衛、教育、司法など多岐にわたる分野で活動中。

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